大判例

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東京地方裁判所 平成8年(ワ)18793号 判決 1997年6月27日

原告

株式会社光文社

右代表者代表取締役

平野武裕

右訴訟代理人弁護士

江口英彦

被告

日蓮正宗

右代表者代表役員

阿部日顕

被告

大石寺

右代表者代表役員

阿部日顕

被告

小長井良浩

外二名

右五名訴訟代理人弁護士

幣原廣

主文

一  原告の本訴請求のうち別訴の提起の違法を理由として損害賠償を求める部分に係る訴えを却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し、金一二〇〇万円及びうち一〇〇〇万円に対する被告大石寺及び同田村公一(以下「被告田村」という)は平成八年一〇月二四日から、同日蓮正宗、同小長井良浩(以下「被告小長井」という)及び同西村文茂(以下「被告西村」という)は同月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  前訴における和解の成立

原告と被告日蓮正宗、同大石寺間の東京地方裁判所平成四年(ワ)第二一〇三二号謝罪広告等請求事件(以下「前訴」という)について、平成七年一一月一七日、前訴第一六回口頭弁論期日において、別紙その一記載のとおりの内容の和解(以下「前訴和解」という)が成立した(別紙その一記載和解条項において、「原告ら」とあるのは本訴被告日蓮正宗及び同大石寺を指し、「被告」とあるのは本訴原告を指す)。

2  別訴の提起

(一) 被告日蓮正宗及び同大石寺は、前訴和解の内容に含まれていない事項であることが明らかであるにもかかわらず、原告に対し、平成八年六月二六日、新聞広告・交通広告の掲載が含まれているとして右各広告を求める訴え(東京地方裁判所平成八年(ワ)第一〇〇三九号和解履行請求事件、以下「別訴」という)を提起した。

(二) 被告小長井、同田村及び同西村はいずれも弁護士であり、前訴において被告日蓮正宗及び同大石寺の訴訟代理人として訴訟活動をし、前訴和解の内容を知り又は知り得べき立場にあるにもかかわらず、被告日蓮正宗及び同大石寺の訴訟代理人として別訴を提起し遂行している。

3  原告に関する虚偽の報道

(一) 被告らは、平成八年一月一六日付宗務広報No.673(以下「本件広報」という)において「東京地裁における審理で光文社を完全に追い詰めました」「謝罪広告に相当するものであることを確認し、積極的攻撃的に和解に応じたのであり、前例のない絶大な成果を上げました」との記事を掲載し、虚偽報道(以下「本件報道その一」という)をした。

(二) 被告らは、週刊文春平成八年二月一日号に、「平成四年、写真週刊誌『フラッシュ』が学会側報道を受けた形でシアトル事件を伝える記事を掲載。これを宗門側が訴えた名誉毀損訴訟が昨年一二月に和解となった。『創価新報』はこの和解を賠償も謝罪も放棄した屈辱的な宗門の敗訴と嘲るのに躍起だが、事実は違う、『フラッシュ』側は宗門側主張を含むシアトル事件の続報を余儀なくされ、一六日発売号(一月三〇日号)で実際に記事を掲載したのだ。しかも、『こちらの言う通りに書いてもらいました。敗訴などとは思っていません』(宗門)相手の要求のままに記事を書かされるなどというのは、報道機関にとって最大の屈辱であることは言うまでもない」との記事を掲載させ、虚偽報道(以下「本件報道その二」とする)をした。

4  損害

(一) 原告が、右2の別訴の提起及び3の各報道によって蒙った精神的損害ないし無形の損害は一〇〇〇万円を下らない。

(二) 原告は、原告訴訟代理人に、別訴への応訴及び本訴の提起を各依頼し、手数料として各五〇万円、報酬として本訴認容額の一〇パーセント(一〇〇万円)を支払う旨約束した。

5  よって、原告は、被告ら各自に対し、不法行為による損害賠償として、右損害金合計一二〇〇万円及びうち一〇〇〇万円に対する各不法行為の日の後である各訴状送達の日の翌日(被告大石寺及び同田村については平成八年一〇月二四日、被告日蓮正宗、同小長井及び同西村については同月二五日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1は認める。2は、(一)につき、被告日蓮正宗及び同大石寺が別訴を提起したことは認め、その余は否認し、(二)は認める。3は(一)、(二)の各記事の存在は認めるが、虚偽報道であること及び本件報道その一、その二を被告らが掲載させたとの点は否認する。4は(一)につき否認し、(二)は知らない。

理由

一  請求原因1(前訴における和解の成立)の事実は、当事者間に争いがない。

二  別訴の提起と不法行為の成否

1  請求原因2(不当訴訟)の各事実のうち、別訴の提起並びに被告小長井、同田村及び同西村の三名が弁護士であり前訴及び別訴に訴訟代理人として関与したことは当事者間に争いがない。

2  そこで、まず、被告日蓮正宗及び同大石寺の別訴の提起並びに被告小長井、同田村及び同西村の訴訟代理人としての関与行為を不法行為とする請求について検討する。

(一) 別訴は、現在別の裁判所において審理中のものであり、別訴提起の当否の判断を求める本訴請求は、前訴和解条項の解釈という主要な争点を共通にしており、実質的に二重起訴禁止の法規(民事訴訟法二三一条)の趣旨に抵触するものであって、訴え提起の方法として著しく合理性を欠き、適法なものとはいい難いというべきである。

(二) なお、本訴は、別訴の当事者ではない個人三名(被告小長井、同田村及び同西村)を被告としているが、唯一の争点を共通にしていることに加え、権利関係の存否に関する紛争を解決する公の手段として訴訟制度が設けられている趣旨に照らし、訴えの提起は原則として適法と解される(最高裁判所第三小法廷昭和六三年一月二六日判決・民集四二巻一号一頁)ことを併せ考察すると、右三名の被告らに対する関係でも右(一)と同様に適法なものとは認め難いというべきである。

(三) したがって、本訴請求に係る訴えのうち、別訴提起の違法を理由として損害賠償を求める請求に係る部分は不適法な訴えとして却下を免れないものというべきである。

三  進んで、請求原因3(虚偽報道による名誉毀損)について判断する。

1  本件報道その一について

(一)  本件広報に本件報道その一の内容の記載があることは当事者間に争いがないところ、原告は、右記載が虚偽のものであり、被告らがこれを掲記、流布した旨主張するので以下に検討する。

(二)  前期争いのない事実に成立に争いのない甲第二号証、第一二号証及び弁論の全趣旨を併せ考察すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、平成四年八月一一日ころ、原告発行の週刊誌FLASH平成四年八月二五日・九月一日合併号において、被告日蓮正宗法主(代表役員)阿部日顕の醜聞に関する記事を掲載し、これを報道した(争いがない)。

(2) 被告日蓮正宗らは、これに対し、前訴を提起し、平成七年一一月一七日、右訴訟の第一六回口頭弁論期日において、別紙その一記載の内容の和解が成立した(争いがない)。

(3) 原告は、平成八年一月一六日、原告発行の週刊誌FLASH平成八年一月三〇日号において、別紙その一記載和解条項第一項に沿う記事(以下「フラッシュ追跡記事」という)を掲載し、報道した。

(4) 被告日蓮正宗は、本件広報において、別紙その二のとおりの記事を掲載した。

(5) 本件広告は、B5判用紙一枚を縦長に使用し、これに日本語で横書きされた文章であり、上から標題、発行日時及び発行者の記載、見出しと続き、以下本文という体裁となっている。

見出しは、本文等の他の部分より大きな文字で「光文社(FLASH)、創価学会のクロウ事件を報道」とあり、その下に「宗門側のヒロエ・クロウ反対尋問にさきがけ」と副題が付され、以上が枠囲みの中に記載されている。

以下の本文は、二三行にわたるもので、一行目から三行目までが冒頭部分、四行目から一〇行目までが「一、光文社事件の経緯」と題された部分(以下「第一部分」という)、一一行目から一八行目までが「二、裁判所の和解勧告による光文社の義務の設定」と題された部分(以下「第二部分」という)、一九行目から二三行目までが「三、さらにクロウ反対尋問で偽証を広く明らかに」と題された部分(以下「第三部分」という)という構成となっており、二三行目の下に、「以上」という記載がある。

(6) 本件広報本文の記載の概要は次のとおりである。

冒頭部分においては、(3)の報道がなされたということを告知するという本件広報の目的が記載されている。

第一部分においては、(1)及び(2)の事実に加え、前訴において「東京地裁における審理で光文社を完全に追い詰めました」という記載(以下「本件記載その一」という)がある。

第二部分では、(2)に至る経緯を説明した上、(3)の報道に関し「謝罪広告に相当するものであることを確認し、積極的攻撃的に和解に応じたものであり、前例のない絶大な成果をあげました」(以下「本件記載その二」という)との記載がある。

第三部分では、平成八年二月以降に行われるヒロエ・クロウに対する反対尋問についての記載がある。

(三)  以上の事実によれば、本件報道その一が被告日蓮正宗発行の文書によるものであることが認められるが、右文書は宗門の内部向け文書である上に、右記事中の本件記載その一及びその二は、表現に少々誇張に過ぎる印象がないではないが、いずれも同被告がフラッシュ追跡記事及び右掲載にかかわった自己らの行動について門徒向けに、一方当事者なりの主観的説明ないし評価を述べているものと解するのが相当であり、直接的に原告の名誉信用等を攻撃する違法なものとはいえず、原告の本件報道その一に関する不法行為の主張は理由がない。

2  本件報道その二について

(一)  本件報道その二が週刊文春平成八年二月一日号に掲載されたことは当事者間に争いがないところ、原告は、被告らが右記事を掲載させ虚偽の報道をさせたとして、これが違法性を有し不法行為を構成すると主張する。

(二)  しかし、右記事は週刊文春発行者の責任において掲載されたものである上、成立に争いのない甲第三号証によれば、内容的にも被告日蓮正宗側の談話として特定された部分は、フラッシュ追跡記事の掲載について、同被告側の主観的評価を述べたものであり、いわゆる写真週刊誌の発刊者としての原告の社会的地位、評価を低下させる違法なものとは認め難いし、その余の部分は週刊文春自身のコメントと解するのが相当である。

(三)  したがって、原告らの本件報道その二に関する不法行為の主張もまた理由がないことが明らかというべきである。

四  以上のとおりであり、原告の本訴請求のうち請求原因2を理由として損害賠償を求める部分に係る訴えは却下し、その余の請求ははいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤村啓 裁判官髙橋光雄 裁判官岩渕正樹)

別紙和解条項

(1) 被告は、原告らに対し、週刊誌FLASH平成四年八月二三日・九月一日合併号の日蓮正宗法主阿部日顕の醜聞に関する記事(以下「本件記事」という)の続報として、本件記事と同一規模の体裁で、右醜聞をめぐるロサンゼルス上級裁判所における名誉毀損事件(原告ヒロエ・クロウ、被告阿部日顕、同日蓮正宗法華講、同日蓮正宗寺院、同法華連合会)及び東京地方裁判所における名誉毀損事件(原告日蓮正宗、同大石寺、被告創価学会、同池田大作)に関連させ、遅くとも同誌平成八年一月三〇日号(一月一六日発売日)において、客観的かつ公正な報道記事を掲載する。

(2) 原告らは、その余の請求を放棄する。

(3) 原告ら、日蓮正宗法主阿部日顕及び被告は、本件記事につき本和解条項に定めるほか債権債務の存在しないことを相互に確認する。

(4) 訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。

別紙宗務広報No.673

H8.1.16宗務院

光文社(FLASH)、創価学会のクロウ事件を報道

――宗門側のヒロエ・クロウ反対尋問にさきがけ――

東京地方裁判所に係属中であった「光文社事件」が、平成7年12月17日、和解成立し、本日発売の写真週刊誌「FLASH」(平成8年1月30日号)の誌上で、所定の義務の一部を履行する報道がなされましたので、お知らせいたします。

一、光文社事件の経緯

光文社は、その発行する「FLASH」の平成4年8月25日・9月1日合併号において、創価学会の報道するクロウ事件の虚偽記事をそのまま掲載し、標題を衝撃的なトップタイトルとして、宗門の名誉を著しく毀損する醜聞報道を行いました。

これに対し平成4年11月28日、日蓮正宗および大石寺を原告として、謝罪広告を求める訴えを起こし、東京地裁における審理で光文社を完全に追い詰めました(宗務広報No.571既報)。

二、裁判所の和解勧告による光文社の義務の設定

裁判所は、光文社が創価学会の「ロサンゼルス上級裁判所及び東京地方裁判所における各クロウ事件の経過を報道する」(趣旨)との勧告案を掲示され、宗門は、その報道内容が学会の虚偽報道を証明するアメリカ司法省情報及びプライバシー局のハッフ部長による1995年7月11日付のいわゆる「ハッフ文書」を掲載するなど、謝罪広告に相当するものであることを確認し、積極的攻撃的に和解に応じたのであり、前例のない絶大な成果をあげました。本日の報道に明らかであり、これはその成果の一部です。

三、さらにクロウ反対尋問で偽証を広く明らかに

来る2月7日及び4月24日に東京地裁で行われるヒロエ・クロウに対する宗門側の反対尋問で、「クロウ事件」とは1963年3月、シアトルで起きた事件ではなく、正に1992年6月に創価学会によって捏造された恐るべき謀略であった事実が、満天下に暴かれます。これは更に広く報道さるべく、更に追求します。

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